今やテレビは生活のなかには欠かせないものとして、人々の生活リズムの中に入っています。
人の心に大きな影響を与えるテレビ。
今回はテレビが子どもに与える影響についてご紹介したいと思います。
テレビ理解への心理学
テレビの人間らしさ
「ありがとうございました」とお礼を言う自動販売機、元気づけたり、疑似的に会話してくれる人工知能があふれています。
そういったものは人間的ではないことを私たちは判断しつつ、それらと付き合っていかなくてはなりません。
人は相手が人間かどうかの判断をコミュニケーションで行ないます。
視覚と聴覚、つまり音と映像で行うのが普通です。
その音と映像を出す「人間のようなもの」の代表がテレビです。
鏡は像だけ映し、ラジオは音だけのメディアでした。
それらに比べて、テレビは音と映像をだす極めて人間的な要素を持っています。
目が合う、楽しそうに話す、語りかける、悩んだりもする。
しかし、見ている側は一緒に食事をするわけでも、メンバーでもありません。
自分とは別の空間にいて違う時間、自分とは関係のない人なのです。
しかし、そういったテレビの理解がなければテレビとの関係は次のような反応が生じることがあります。
事例.1
2,3歳の子ども
両親がニュース番組を見ているときのこと。アナウンサーが顔をあげてニュースを話すときにこちらをじっと見ており、目線が合うので、テレビのある部屋でパジャマに着替えるのを嫌がる。
事例.2
90代
同じく、他人が自分を見ているので、恥ずかしくて着替えることができなかった。
これらは、他人が自分を見ているので恥ずかしく思うという、ある意味で当たり前の反応です。
モニター画面の人は視聴者を見つめて話しかけており、一方で視聴者は番組であれ、CMであれ、画面の中の人を無視しなければ日常生活を行えません。
つまり、テレビなどの映像を見るためには、人がそこに存在しているが無視するという能力を身につけなければならないのです。
誰でも簡単便利なテレビ
テレビは操作性が優れた機械で、スイッチをつけてチャンネルをあわせれば、見ることができます。
この操作の簡単さが、テレビは簡単なものであり、子どもでもわかると思われてきました。
そのため子どもはどのようにテレビを見て、どのようにわかるようになるかということについてはあまり研究されてきませんでした。
しかし、実際に子どもはテレビで内容の読み取りを間違えます。
発達心理という視点から見れば、子どもは家族や友達と話す中で間違いを修正しながら、徐々にテレビを見る能力を身につけていくのです。
「テレビの歴史」
1953年 テレビ放送が始まりました。
知識の中心も父親や長老がもっている伝統的で地域固有の口伝から、テレビが伝えるニュースや天気予報、クイズ番組へと移っていきました。
テレビの放送時間が伸びると、低俗な内容も増え、テレビを見ると馬鹿になるといわれていた時代もありました。
また、テレビばかり見て外で遊ばないなどの現象が起きると「テレビっ子」として子どもの問題が注目されるようになりました。
テレビの影響心理
暴力映像を視聴すると、子どもが暴力的な行動をとることを示唆されましたが、長期的影響においては結果は示されていません。
日本では黒磯事件(1998年)やポケットショック(1997年)をきっかけに、1990年放送と青少年に関する委員会BPO(放送倫理・番組向上機構)が設置されました。
これは市民の意見の元番組を改善していくというもの。視聴者は、疑問に思う番組に対しては積極的に活用しましょう。
放送番組への意見を送る
大人もテレビを間違う時代
映画がはじまったころ、観客はスクリーンに映し出される蒸気機関車をみて腰をうかし、逃げた人や映画が終わってからスクリーン裏側をのぞき、機関車をさがした人もいるといわれています。
現代ではこうした行動は子どもがすることと言われていますが、かつては大人でも映像を見て機関車が本当にいると思っていたのです。(実在視)
大人は類似した映画を何度か見たり、仕組みを知ることで実在視しなくなるのです。
しかし、テレビの場合は家庭に普及されているため視聴者がどんな反応をしたのか、記録がほとんどありません。
事例1
80代おじいさんがテレビの相撲を見て
「これはどこでやっている?近くでやっているなら見に行く」
といって玄関にでていってしまった。
当然そんなことはないので、説明するが画面はどこから送られてくるのかわからない様子であった。
この事例をみると、テレビを見てわかるには、放送や電波に関する社会知識が必要なことがわかります。
事例2
77歳・72歳
スポーツ中継の中で、VTRと実際の試合の区別がつかず、ホームランのシーンが流れると
「あっ、また打った」という。
再放送と生放送が理解できていない例です。
事例3
83歳
縄跳びをするペンギンを見て
「ペンギンはこんなことするわけがない」
「誰かがぬいぐるみの中に入って、それを小さく撮っているいるんじゃないか」
という
この事例は2000年頃のものですが、CG技術の高度化に伴って、ペンギンが本物かどうかの区別が難しくなっていたことがわかります。
しかし、「ペンギンがこんなことをするわけがない」という言葉は、動物や撮影に関する知識を持っている大人の特徴的な発言と言えるでしょう。
事例4
72歳・7歳・11歳
ストーリーが分からず、どうしてそんな展開になるのかが理解できず、何度も内容を聞いてくる。
回想シーンは、過去や現在を行き来するため、子どもには分かりずらいです。
小学校低学年には時制が変わるストーリーが分かりません。
幼児のようにテレビをわかっていく過程と、その逆にわからなくなっていく過程があることが分かります。
テレビをわかり事の難しさを示す例です。
子どもはテレビをどう見るか
今や多くの家庭が、赤ちゃんの頃から教育番組をみせています。
テレビが子守りをする時代です。
テレビをつけていれば、子どもは静かになる、おとなしく見ているというような理由でテレビを見せていることがほとんどでしょう。
では、子どもはどのようにテレビを理解してみているのでしょうか。
🔶乳児の場合🔶
・生後3か月でテレビへの反応はあるが、抱っこしても半分以上は別のところを見ている。
・生後6か月では注視率が上がり、身じろぎもしないで画面を見続ける状態。
・1歳でテレビとのやりとり(映像の理解)10分間見続ける集中力がつく。
・1歳3か月 視聴習慣の形成(毎日同じ時間にテレビをつけて消す)
幼児は「おかあさんといっしょ」のような25分程度の幼児向けの番組であれば、集中してみることができるということがわかります。
ただし、この番組が2歳児の興味を引くように作られているということで、他の番組でも同じになるわけではありません。
先ほども述べましたが、テレビをみる視聴者は番組であれ、CMであれ、画面の中の人を無視しなければ日常生活は行えません。
これは赤ちゃんのうちからテレビを見ていると、視線を逸らす習慣をつけてしまう可能性があります。
つまり、テレビが目を合わせない子どもを生み出すという考え方です。
🔶子どもの情緒🔶
テレビの中に映る人たちは楽しそうに歌ったり踊ったりしています。乳幼児はそこへ近づいて仲間入りしようとします。
・テレビの中には人が住んでいると考える
・テレビの中に入りたい
🔶子どもの認知🔶
子どもがテレビに近づく理由には、テレビの見方の実験という側面もあります。
・視線の探索→映っている人の目はどこを向いているのだろうかと画面の前をウロウロする。
・画面を叩く→テレビの人を振り向かせようとして画面を叩く
・光の点が人間に見える距離を測る→どこまで画面に近づくと点に見えるか、どこまで離れると絵として見えるのか。
子どもはテレビの前でウロウロしたり、近づいたり離れたりしてテレビを理解しようとするのです。
そして横に動いたり、近づいたり離れたりしながらテレビを見ることは他にも意味があります。
それは、テレビの中と外との違いに気付くことです。
自分が動けば、壁やテレビ台、そばにある本棚、物の重なり、影の見え方が変わります。
テレビも近づけば、他のものとの対比ができます。
しかし、テレビ画面の中は変わりません。
普通は、顔を斜めから見たり、下から見ると違った形が見えます。
ところが、テレビの中の人の顔は変わりません。
そこで、テレビは平らだということに気付けます。テレビの中は他のものとは別の見方をしなければならないのです。
🔶アニメは子ども向け番組か🔶
アニメ「サザエさん」の理解
事例1
4歳
「サザエさんとカツオ君の頭の中になんで人がいっぱいいるの?」
サザエさんとカツオ君が過去のことを思い出すという場面。
頭の中にたくさん人がいるという解釈をしています。4歳児は回想シーンが分からないだけでなく,ワイプの役割を理解していないことが分かります。
この場合そばで見ている大人が「二人は昔のことをおもい出しているんだ」と教えるかどうかが大切なわけです。
幼児、小学校低学年には時制が変わるストーリーが分かりません。
「心の理論」に関する研究では小学4年生くらいから心の一般化といって、直接接する相手だけでなくクラスみんなの考えとか学年全体の意見を考えられるようになります。
それと同時に、自分の心を他社から独立したものととらえられるようになります。
過去の自分と現在の自分そして未来の自分をつなげて考える、自我の一貫性をもつようになるのです。
そのため、アニメであっても回想シーンは過去や現在を行き来するため子どもには分かりずらいのです。
保護者の関心の低さ
テレビの視聴について、2004年日本小児学会がテレビの視聴は言葉の発達に影響を及ぼすとして、2歳前後の子どもの視聴を制限する提言が出されました。
これは、一日4時間以上みているグループでは有意義言語の出現が遅れるというデータに基づいたものでした。
この提言を受けて、乳児のテレビ視聴研究が行われるようになりました。
この結果、0歳児がテレビに接触している時間は一日平均で3時間4分であることがわかりました。
つまり、実際赤ちゃんが専念視聴している時間は10分程度ですが、多くの時間はテレビがついているだけであることがわかりました。
今の保護者は生まれたときからテレビがある環境で育っているため、テレビ批判や子どもへの影響について考えられてきませんでした。
したがって、スマートフォンやビデオで映像を赤ちゃんに見せてあやしたり、泣き止ませるという使い方をしています。
子どもはテレビの前でウロウロしたり、近づいたり、離れたりして、テレビを理解しようとします。
保護者である親が、 テレビをわかることの難しさ を知ることが大切です。
そして、映像理解には発達段階があり、人との関りのなかで理解してゆくという認識を持つことが必要でしょう。
参考文献:「子どもはテレビをどう見るか」著・松野井均
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まとめ
いかがでしたか。
テレビについて書かれた本というものがちょっと珍しいなと思い読んでみました。
テレビ視聴のあり方や、大人や子どものテレビの見方。テレビのシステムなど、おもしろい視点でテレビについての研究が書かれている本です。
子どもの教育上テレビはよくない・・・と自分自身なんとなく思っていましたが、なぜよくないのかがハッキリということができませんでした。
テレビの作られ方や、視聴者のテレビの見方を知って、もっとテレビに対する研究がされてもいいのではないかと感じました。
テレビが人に与える影響がどのようなものか、テレビとの付き合い方についても取り組む時代になってきているのかもしれません。
ときに子育て世代には、テレビとの正しい付き合い方をもっとよく知ってほしいと感じました。
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